田舎の秋田に住んでいた時、近所に『金田さんのおじさん』という人がいた。 電気少年だった私が遊びにいくと、おじさんは作ったばかりのパワーアンプ に火を入れて、直径70cm以上あるようなスピーカーで音楽を鳴らしてみた ものだった。この方が雑誌『無線と実験』などで 「スピーカーコードは、ダイエーの1m70円のコードでなければならない」 (が良い、でなくて、でなければならない、とくる(笑)) などと気を吐いて有名な金田教の教祖、 金田先生である(件のスピーカーは、JBLの4343だったかな?)。
後日、金田先生の研究室を出た同級生(金田先生は秋田大学の先生である) に、先生はCD嫌いであるという話をきいた。こりゃもっともである。CDは聞こえ る音を斬り捨てている。結論を先にいうと、私はCD推進論者である(であった、 かな? いまさら私が推進しなくてもCDは市民権を得た)んですけども、それでも 自分で聴力検査をするといまだに左耳26KHz、右耳22KHzまで聴こえるもんね。 その辺の成分が音楽にとって(まあまあ)大事なことも、それを20KHzですっぱり 斬り捨てるCDの規格も、最高の音を求める人にとっては許せないのはわかる。
でも本当にCDでアナログ盤より音は悪くなったのであろうか。 金田先生をはじめ、一部上流社会(笑)、ぢゃなかったハイファイな人々にとっては もちろんそうである。しかし、それまで(アナログでは)60万円とか出さないと 得られなかった音質を、6万円で得られるようになった功績は大きい。 つまり大多数の人にとってはCDってのはアナログより音が良くなってるんです。 いや、私がそうだから言ってるんですけれども(さすがにオーディオに60万円は 出せねえ)。 それでアナログ盤が次々と消えていくので悲しい思い・腹が立つ思いをした上流 社会の人も少なくないだろう。
同様のことが今、CD→MDについても起こりつつある。そして私はMD否定論者であ る。
MDは、音をディジタルに変換し、記録するという点ではCDと同じである。 ただMDではデータ圧縮をしている。このデータ圧縮が実に巧妙にできている。 なおかつエンジニアとしての私の立場は、この圧縮を推進しなければならない、 というものなのである。
まずネットでフリーソフトウェアなどをダウンロードする時に使われる、 可逆圧縮というものを最初に押えておこう。 この範囲に入るものとしては、『LHa』や『zip』が有名である。 お猿さんでない人間のコンピュータ・ユーザなおかつネッターなら、 一度くらい拡張子が『.lzh』『.zip』 のファイルってダウンロードしたことあるでしょ? それよ。 データってのは数字の 並びである。不思議なようだけど、プログラムだけぢゃなくって、 絵も音も。圧縮→伸長したときに、完全に元と同じ数字列に戻せれば安心 なわけです。データ(数字列)が何を表現しているか(プログラムなのか、 写真なのか音なのか)を気にしなくて良い。ところが、これで音楽 データを圧縮してみると、実に2割程度しか減らない。
そこで非可逆圧縮というものが登場だ。これは耳の錯覚を利用して、 ときには音質を落としたりして、音楽の音楽的な成分をどんどん斬り捨てる ことによって圧縮するものだ。ネットで音楽を送る時に圧縮済みのデータの大き さが8/10程度になったって話にならないし、さらにいうと1/10でもお話にならな い。1/50とか1/100とかにしないといけない。 そこでこういう技術を研究するのが私の本職なわけです。
ネットで音楽、というのは大変極端な例で、MDの圧縮率は2/10程度なので、 かなりのハイファイを保ったまま圧縮ができる。 MDの板を見たことある人も多いと思うけど、あれ中身はCDシングルくらいの もんでしょ。 MDの方はカートリッジに入っているけど、これは本質的な違いではない。 いや、CDなら傷ついても汚れても、(もちろん誤り訂正という『修正』を 施した上で元に戻らない『数字』は)前後関係から推測できる(『補間』)けど、 MDくらい圧縮してしまっているとこれが弱くなるからね、そういう意味で傷つか ない構造になっているというのは本質的な違いなのかな。
ともあれ、 CDシングル(無圧縮)だと20分とかしか入らない音楽が、MDだと74分入る。 これがディジタル技術ってやつだね。万歳!!(笑)
以上エンジニア佐々木がお送りしました。
さぁここからはミュージシャンたりゃがお送りするぜ。アユレリ? イェイ!!
↑ってどうしてこうミュージシャンというとステレオタイプなんでしょうねえ (笑)。上の文章のことだけぢゃなくて、世間一般の貸しスタジオとかに来ている 奴!! 『形から入る』とか『気分を盛り上げる』ってのは大事かもしれないけど、 それってすげー古くさい精神論ぢゃないの?(笑)
閑話休題。 で、音楽を作ったりする立場で論じると、このMDの圧縮というのは とんでもない余計なお世話なわけです。
まず宣伝が良くない。SONYがこの規格を作ったわけだけど、『MDは人間の耳に 聴こえない音を切り捨てて……』ってそりゃ詐欺だね。聴こえる音を斬り捨てて ますよ。聴こえないのならば開発したエンジニアの耳に欠陥がある。 音楽関係技術を研究する資格ねーよっ!! という耳をしている。
それから店頭デモ。あれは腹が立つ。まず店頭で聴いて違いが分かった人は いないんぢゃないかな。いやこれは俺の耳では分かるぜ、お前らの 普段ろくな音楽聴いてねーような耳ではわからないんだっっ!! って言ってる んぢゃなくて(笑)、店頭のざわざわしたところで聞いてまずわかるかっつーの。 家帰って静かな部屋で聴いて悲しい思いをするんだぜ > 電器屋。 それからMDのすべてみたいな、マライヤ・キャリーのボーカルありのピアノあり のオムニバスCDを 聴かせてましたけども、あれも詐欺に荷担している。 というか確信犯だね。 大体ボーカルとか ピアノって一番、微妙そうと思うでしょ? 違うんだなこれが(笑)。 特定のところに周波数成分が固まっていて、早い話が一番、MDが圧縮を得意とす るような音楽です。つまりある意味、情報量が少ないわけね(反論却下)。
これって上品な音楽ほどそうでして、ジャズのシンバル(周波数成分の分布が 一番広いのでは)レガートばりばりの曲とか、プログレのすげーうるさいのとか メタル寸前のハードロックのディストーションばりばりギターとか、そゆのを 録音して再生して、MD駄目だと思ったもん。まず音楽の解像度が悪いというか、 速弾きしまくり 手数(てかず)駆使し捲くりみたいな音楽だと、一つ一つの音がぼやけてくる。
あと店頭デモで『この通り音質劣化なしに……』って言うなら、 比較対象、同じソースをCDでも隣に置いておいてくれきゃ駄目 ぢゃないの。例えば男子クラスに女の子が入ってきてごらんよ、 どんな女の子でも……(失礼しやしたー)。
それからドラマーである以上、太鼓とかシンバルとかそういうのを録音して 聴いてみると、楽器の『カラー』が変わってしまうのね。もっともレコード録音 する時 にミキサーでカラーなんていくらでもいじれるんすけども、それから違うシンバ ル使えば違うカラーになるんすけども、少なくとも録音して再生した時点で原作 者の意図とは違う色になってるわけでしょ、それって芸術を記録する 技術としては許されると思う?
さらに言わせてもらうと、変な歪み方をする。 「MDだってカセットの代用と思えばかなり音は良くなったし、手軽だし、いいぢゃ ん」と言った先輩がいて、まあアナログ盤→CDのこともあるし、そんなもんかな これからはスタジオ録音はこれかな、とかも思いましたが、今だからはっきり言 います。 これならカセットの『ノイズしゃーーー』だらけの音の方がまだまし。 カセットのノイズの乗り方(歪み方)ってのは、ある種公平でしょ。 どんな音も均一に悪くなる感じ。 ところがMDの音の歪み方ときたら、なんか聴いていると神経が昂ぶってくるよう なひどい歪み方。ヒステリー女の叫び声を100倍に薄めて音楽の上から振りかけ たものを1時間とか聴いているような感じ(笑)。
えーと感覚的な表現で申し訳ありません。ともかく『音楽を聴くメディア』 としての評価で一番大事な、音質はそんなもんです。
だからMDデータドライブが原因でうっかりMDプレー ヤを買うことになる前は、一生、MD関係機材に1円も使うものか、と思っていま した(笑)。
では『ファッションとしてのメディア』『データ記録メディア』としては どうか。
音質なんかどうでも良い、自分で編集したお気に入りテープ (MD)で小室とSMAPがきけりゃあいいのよ、という音質無視・著作者の意向 & 著作権無視野郎は、これってすげー良いメディアだと思います。止めません。 でもあまり普及して欲しくないな。そのうちCDでは出しませんMDだけです、なんて ソースが出てきたら困るから。
もひとつMDの良い(私にとって迷惑な)ところは、録音できるメディアでしょ、とこ ろがそれと全然違う方式で、印刷によるソースの生産ができるのでした。 何のことか分からない? CDって印刷して作っているわけよ。ミュージック テープなんかは、4倍速とか両面10倍速とかで作っても、1本生産するのに 5分とか10分とかかかるわけでしょ、CDなら印刷(プレス)一発。 それと同じ原理で生産できてしまいます。 冒頭で述べなかったCDのも一つ良い点は、かくも簡単に(安価に)作れるため、ア ナログ盤で絶版になったような(誰も聞かない(笑))マイナーなプログレなんかが、 近年ほいほいと生産されてきていること。どうしても欲しい人はプレミアムがつ いて10万円とかで入手してたのがあんた、輸入盤屋で『懐かしのなんとか特集〜』 なんつって2,480円税込みなんかで売られていた日には、それ(オリジナル)持っ てる人は「でもやっぱCDのジャケットって貧相だよね」とか自己正当化(心理学用語) するしかないじゃあないですか。そういうメリットを認めるからこそ、 MDという気に食わない音質に全世界のソースが移行したら困るな、と。
こんな私でも、まずドラムのレッスンの録音したり(後から不要な部分を編集で きる強み)、録音機持ち込み禁止のライブに持ち込む(爆笑)ときは、 小さくて軽くていいです。ただ74分というのはねー、短過ぎるよ。 さすがに自分の出演したライブの本番とか、そういう(大事? な)ものを録る時に は、DATといういいものがあるからMDなんか使いませんね(へっ)。
あとディジタルメディアとしてのバランスはどうかというと、これは MDデータの項でも誉めそやしたように、 なかなかいいもんですよ。だからこのサイズで非圧縮15分とかいうモードが選べ れば、ちょっとしたものの録音にばんばん、使ってあげたのに(お前になんか 使われなくてもいいって? 失礼しました〜)。
以上読んで、「佐々木は勝手なことを言っている。自分で前半、CDは民衆に 良い音を普及させたから聴こえる音を斬り捨てるのは目をつぶると言った癖に、 後半MDの音質をぼろくそにけなしている」と思ったあなた。 その通り。返す言葉もございません(笑)。
ただねえ、出てくる音がヒステリックで、それも機械の特性でなくて規格そのも のの欠陥、というのが『CDが我慢できてMDが我慢できない』理由なんですよ。 あとはどっち側に付くか(音質←→手軽)によって、私はアナログ島と MD島にはさまれた島、現在一番大きな島ではあるけどこの後どんどん陥没するか も知れないCD島に取り残されるのをよしとしよう。 心配なのはCD(板)の寿命だけどね。とりあえずCD発表当初の7年寿命盤はすべて 買い直した(でもないか)けど、いつまで持つことやら。この話はまた。
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