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出典: Tariki
手作り深夜トランス屋
はじめて(1999年)台湾に滞在したとき、びっくりしたのは店が夜も営業していることだった。
デパートなら21時か22時くらいまで開いている。さすがにその後(ここ数年)、日本でも不況における営業努力とやらで、近所のスーパーなども午前1時まで営業していたりするが、やはり限られた業種である。
台湾だけでなくニューヨーク(マンハッタンの中心部だったのでほかは知らないが)などもそうだったが、街全体が夜更かしである。いわゆる9時5時のサラリーマンが就業後、こういったサービス業を利用できるので便利なのだが、そうすると今度はデパートの店員が仕事を終えた後食事をするようなところ、映画館、などは、午前1時すぎまで営業しているということになる。じゃあ食事どころの店員が使う店は……と考えていくときりがない。お前らいつ寝ているんだ? と感じる。
要するに仕事をする時間がみな必ずしも一定ではなくて、通勤ラッシュ時に皆が通勤はせず、7時のニュースを観ながら晩御飯を全家庭がとっているわけではない、というように、生活時間帯のバリエーションが広いだけである。個人単位でみたら別に24時間働いているわけではない。
これは田舎だったら夜が早くなるというものでもなくて、田舎に行ったら田舎に行ったで、深夜まで延々と夜市がやっていて、近所のじいさんなどが道にベンチを出して夕涼み(夜涼みか)していたりする、というように風景が置き換わるだけである。日本では田舎ほど店が閉まるのが早い(うちの田舎など19時に閉まるコンビニがある(笑))。
ちなみに台湾では夜は子供も元気である。夜市で飲んでいる横で、子供が平気で三輪車を乗り回して追いかけっこしていたりする。こういった傾向は(ベビーカーの出現と比例していると思うが)日本でも最近みられる。少子化でなおかつ父母が『子供がいるから我慢』しなくなって、居酒屋などに平気で連れて行く(これは情操教育上悪いと思うのだが)ようになって、夜でも子供を見かけるようになった。私の頃(昭和40年代)は12時まで起きているというと年に一度、大晦日の晩だけの楽しみだったのだが。
台湾人の嫁にきくと小学校時代は、お昼の時間(弁当持参だ)と午後の授業の間に、『昼寝の時間』(まるでスペインのようだ) というのがあったらしい。机に突っ伏してクラス全員で昼寝するのである。だから子供も睡眠不足にならないらしい。
さてそのとき滞在していた宿屋というのは、西門町の北のほう、西寧電子広場とよばれる地域のはずれ (開封街) にあった。中華な街は同業者が集まるという法則があるのだが、この一体はAV機器ショップなどが集まり、宿屋があるビルも一階は電子キットなどを売っているパーツ屋であった。いわゆる古き良き(1980年代までの)秋葉原をほうふつとさせた (うちの近所の石川町 = 元町と反対側には2000年ころまでエジソンプラザという電気ビルがあったが、そちらに近い)。ちなみに台北の秋葉原とよばれる光華市場は別の場所にあるのだが、こちらは現代風の秋葉原であり、PCやソフト・ハイテク機器などが中心である。私の中での真の秋葉原は、どちらかというとこの西寧電子広場のイメージだ。
西門町付近でビールを飲みながら延々食事をして、夜(23時とか午前1時とか)になって宿屋に帰ってくる。すると、宿屋の隣のビルの一階のトランス屋に、煌々と灯りがともっているのだ。もちろんトランスを売っているのだが、この店は自家製のトランスも製造している。
小学校のころからラジオ自作小僧だった私としては、トランスといえば例えば山水製であり、機械が製造して綺麗にパッケージされて型番で買えるものなのだが、この店ではそれを自家製造している。鉄芯(これはオーダメイドなのだろう)に綺麗にエナメル線などを巻き、最後に絶縁のために松脂なりエポキシで固めれば、トランスは出来上がる。松脂だかを塗る行程で、四角い石油缶を切っていぶす(?)ための道具が歩道に置いてあり、ときには製造の仕上げ作業をしている。スモークサーモンなどを作るのと似ている。
もちろん綺麗なパッケージこそないが、私のイメージする工業製品たるトランスと違わない綺麗な仕上がりだ。それが実に手作りなのだ。山水製のトランスを『買って』使っていて、電気工学科を出ている身でありながら、恥ずかしながら想像もつかなかった。
でも店頭で売られている売れ筋製品をよくみると、入力100V出力200V、取れる電流が5Aなんていう規格である。明らかにオーディオ用などではないし、牛のようにでかい。ACをACに変圧して使うものだ。正確に言えば、100V地域(台湾は日本と同じ100V地域だ)で200Vでしか動作しない電気製品を使うひとのためのものである。これが深夜1時すぎまで営業しているのだ。
このエピソードの奥にある真相には後日、はたと気づいた。
台湾には(言葉が通じることもあり)中国大陸からの違法入国が後を絶たない。街には『大陸からのスパイをみつけたら通報を』なんていうポスターが貼ってあることもある。まあみんな冗談半分に流している。言葉(中国の各地方の訛り: ちなみに標準中国語の台湾訛りというのもある)でスパイだか違法入国者だかに気づいて検挙された、なんていうニュースも観たことはあるが、これは抑止力のための報道であろう。大陸からの引き上げ者なんてのは普通にいるし、その中にスパイだか違法入国者が紛れ込んでいても普通はわからない。
でも中国大陸からの違法入国者が、国で使っていた電気製品を持ち込み、台湾の100Vでは動かないから深夜にそっとトランスを買いにくる。需要があるから店は深夜まで店を開けて待っている。
もしかして私の考えすぎかもしれないが、そういった物語が手作り深夜トランス屋にはあるのではないか、と思う。
