Ev:happy flight-sorahe

出典: Tariki

映画 ハッピーフライト/空へ

この(2008年)秋は、なぜか航空祭と予定が合わず、羽田空港に行ける時間がある・行こうと思うと天気が悪かった。せっかく映像を残し始めたAVCHDカメラの出番もなかった。

そんな中で、11月~12月にかけて、日本の映画史上でも珍しい面白くリアリティのある航空映画が2本、立て続けに公開になった。民と軍の、それぞれ協力も全面的に得られ、映像としても満足がいくものであった。

私としては珍しく (珍しいことを立て続けに二回)、どちらも封切り日に行った。混んでいるのが嫌なので、いつもは公開翌週末を狙うのだが、そんな心配がないくらい客がいない(泣)。私の指定席は、前から2列目の中央である。ここだと大体、画角が35mmフィルム換算で28mmくらいの迫力になるし、Dolbyその他の音響システムも360度満喫できる。客の入りが5割くらいでもこの席は大抵空いているのだが (なんで映画館で後ろで観るのだろう。高い金払って家と同じ程度の迫力でいいんだろうか)、列が私一人 (『ハッピーフライト』は嫁と二人) 貸しきり状態であった。封切初日の夕方みやすい時間。首を後ろに回してみても客はちら、ほら。『ハッピーフライト』などはこんなんで、とある調査では封切り週第2位の客の入りだったらしい。ああ。日本映画の衰退(泣)。とか書いているが、私自身も実にこのコーナーの映画評論も2年ぶりというていたらくで (もちろんその間に多数映画は行っているが)、ひとのことは言えない。

もちろん空モノだけあって、28mm画角の座席ならどちらもトべる。どちらも手持ちカメラをわざと? 多用した、よく揺れる映像で、映画館ではド迫力である。いまはロードショーで客が入らなくてもその後DVD化で元を取るようだが (もちろん私も日本ともDVDが出たら買う。5本ずつ買ってもいいくらいである(笑))、家では画面の大きさも色・明るさも音響も、映画館で観たものは望むべくもない。もし後日、二番館などで観たとしてもこのド迫力は望むべくもないから、まさに映画も一期一会の芸術である。……期間内にもう一度くらい行こうかな。

ハッピーフライト

私は飛行機が好きだ。もちろん戦闘機のスピード・機動性なども美しいと思うが、旅客機も好きである。

最初はその飛ぶ姿の面白さから入ったが、いまでは飛ぶのをみるのはもちろん(写真に撮ることも)、ラジコンもフライトシミュレータも航空無線も、あまっさえ羽田空港に行って屋上でボーっと、あの荷物を機まで運ぶムカデのような自動車やスポットまでの送迎バスなどを観ているのすら好きだ。

そもそも目に見えない決められたレールの上をきっちり時刻どおりに飛んでなんぼ、という旅客機が好きであるというのは、実は人間が作り上げ運用しているこういった超複雑な『システム』がうまく動いているのをみるのが好きなのである。飛行機を飛ばしているのはパイロットであるが、それを地上から支援する各種管制やカンパニー、定時に離着陸できるようにサポートする地上スタッフ、整備からそもそも航空機を飛ぶように設計・製作する航空機メーカーのひとまで、実に気が遠くなるような数のひとびとの支援があって、旅客機は当たり前のように決められた時刻に決められた場所を飛ぶ。

だがこういった趣味は非常に理解されにくい。私から最も近いところにいる嫁ですら、こういうことが面白いんだよ、と私が口角泡を飛ばして説明し始めると、あーはいはい、という感じで食器を下げに立つ。

これまで矢口史靖という監督を意識していなかったが、『ウォーターボーイズ』『スイングガールズ』は知っていた。この監督はもともと旅客機オタではなかったようであるが、取材していくうちに上記のような部分をやはり、面白いと思ったようである。私が上記のような部分を面白いと思ってもひとに説明すらできなかったのを、この映画で矢口監督は120%描ききっている。私の趣味が理解できない、というひとにはこの映画を観てもらうだけで、フライトシミュレータ (パイロットのお仕事が面白いと思う部分)、ラジコン (航空機メーカから整備士の仕事)、航空無線 (管制やカンパニー)、羽田空港でボーっ (グラウンドスタッフ) をしなくても、その面白さの一端が垣間見られると思うのだ。

もちろん映画であるから作り物の面白さ、普段こんなドラマチックなことはねーだろ、という事件を凝縮してみせている脚本ではあるが、これは圧倒的なリアリティに救われる。なにしろ羽田のアプローチからタワーにハンドオフするときにラジオの周波数が正確 (別バンドには123.45もセットしてあった)、なんてところまで気を使っている (まあその割に台風でエマージェンシーで16L着陸かよ!? と突っ込みたくなったりもしたが)。

このリアリティを実現したのがANA全面協力という部分であろう。クレーマー乗客にはどう対処するか、緊急時にはどうしなければならないか、など宣伝(教育?)くさい部分もやや目にはついた (これは『空へ』での空自全面協力でも同じことがいえた)。しかしせっかく客を教育するなら、離陸前のつまらないインストラクションビデオよりこの映画でも流したほうが、よっぽど興味を持って観てもらえるのではないだろうか (まあそれでは離陸に2時間掛かってしまうが)。ANAも撮影用のジャンボを半月貸したときいてびっくりしたが (リース料から計算したら2000万くらい? にはなる)、ANAのCMを撮ってもらったと思えば安いものである(笑)。

俳優陣は、なべて男性がよかった。主役のPやCoPの役作りもとてもよかったが、なんといっても岸部一徳の『ハイテク化に取り残されるがいざというときすごい』カンパニーのおじさん、というのがぴか一である。ほかに『嫌な感じの厳しい上司だがフロントに出たら超有能』なグランドスタッフのチーフとか、若手整備士とその上司もよかった (ちなみにエンジニアはこの映画を観るのは必須である。古き良き職人の世界が描かれている)。それに比べて女優は、もうすこし演技力・ルックスとも考えてほしかった。CA陣は現実にいそうな風貌だが演技力が弱く、リアリティにもドラマ性にも欠ける (どうせあり得ないCAなら超美人を配するとかしてもいいのに)。ただ女優ではひとり、GHのリーダー役の女優 (田畑智子というらしい) は、与えられた仕事をオーバーすぎるくらい必死にこなすGHを演じている。 容貌はそれほど美人というほどでもないが、こんなGHにサポートされた乗客なら、確実に彼女に惚れてしまうだろう、と客に感情移入してしまった。

ところでこの映画は今年劇場で観た中では間違いなくNo. 1であり、私の中では★★★★★である。ただし一般人 (? 飛行機なあれこれに興味がないひと) にこれが伝わるんだろうか、という点を差し引いて★★★★☆とした。この映画は嫁と観にいったが、「夫が何を面白がっているのか少しは分かった?」ときいたら、十分分かったようではある。しかし普段私が、エアバンドを聴きながらmode Sのバーチャルレーダーで旅客機を追いかけているのを横目で見ていたりするから、『チョコレートを5マイル離さないと気がすまない』あたりのネタも、ふつーのひとより良く理解してしまったかもしれない。

空へ

こちらは映画としての出来は今ひとつであるように思える。俳優陣もあまり演技力があるとはいえなかった。ただし主演の新人の高山侑子には特筆すべきものがある。実年齢より5歳サバを読んで15歳で20歳の女性ヘリパイの役をやっている。体つきが良いこともあるが、物腰などにあまり違和感はない。それもそのはず、高山の父はほんものの救難隊員であり、事故で殉職してその追悼式に出るため上京したところをスカウトされた、というのがデビューのきっかけである。小さいときから自衛隊(救難隊)というお仕事がどういうものかみて・きいて育ったことが関係していると思うが (まあこの映画以外で演技力がどう出るかは未知数であるが)、救難という任務に感情を持ち込んでしまう役の演技にもプラスになっているように思えるし、エンディングで難しい任務をこなした後に『より一段上のプロフェッショナル』の目つきになるあたりは、あれっと思うくらい凛々しかった。このシーンでの顔つきは、男優も含めた俳優の中で一番、男らしくてカッコ良いと思った(笑)。

ほかにも、整備士役の女優もよかった。ただの眼鏡っ娘かと思っていたが、最後に恋人が救助されて喜ぶのを隠して整備に励む、なんていう演出・演技もよい (あれ、これもただのツンデレかも(笑))。

脚本は、はっきり言ってちょっとだるいのではないだろうか (ちなみに原作もアニメもみてませんすみません)。ちょっと失敗した→落ち込んだ→きっかけがあって元に戻った、という小噺 (それまたあまり上手ではない) が主人公を替えて4回くらい繰り返され、あまり盛り上がることもなく、韓国ドラマのようにあり得ないドラマに走ることもない (まあそれが、航空自衛隊という組織の中の、救難隊のさらに日常のリアリティなんだろうが)。最後のちょっとした事件 (これもあまりドラマチックではない) に至るまでは、このままオチなしヤマなし、UHが飛び回っているだけだったらどうしよう、いや俺はそれでも1800円どころか18000円出すぜUHが延々2時間飛び回っているだけの映像でもDVD10枚買っちゃうぜ俺は俺は!! と思った。

映像はこれまた航空自衛隊 (のみならず海上自衛隊までも(はーと)) の全面協力により、もの凄い仕上がりになっている。ド頭のバートル (今秋引退しちゃったんだよねー犬みたいで好きなのに) の病院着陸からオープニングの海を嘗めるように飛ぶUH、U-125の離陸流し撮りシーンやF-15の編隊ド接近撮影、エンディングのUHとU-125のペア飛行まで、もうこれは飛行シーンDVDも別に出してくださいよ20枚買うからさ、と言いたくなるくらい美しい。美しいだけではなく海難救助シーンでは、映画館で観ていたら酔うぜ!? 前席ポケットの衛生袋をご利用ください!? と思うくらいぶれまくりのハンドカメラで、まるで自分が乗っているかのようなド迫力である。特撮はどこまで使っているかわからないが、技術的にもふだん観られないような航空機の挙動がいろいろ出てくる。山岳での救助、クライマックスでの海での救助シーン (U-125がマーキングするのははじめてみた)、圧巻は漁港のUHの幅ぎりぎりの埠頭に着陸するシーンである。

パンフレットによるとこういったあたりはほんものの航空自衛隊のパイロットが演じたらしいが、こういう技量と機材をもった軍隊に守られている限り、日本はまだまだ平和を謳歌することが許される時代にいるのだなあ、と実感する。