ハードディスクMTR
Roland VS-880

★★★

それは私のドラムの師匠、 菅沼孝三先生の無謀な(笑)提案から始まった。 その前の秋、ネットにハマり始めた菅沼先生は、何かweb上でやろうという。 提案されたのが「音楽の部品をサーバ上に置いておいて、リクエスト(ソロ回し の順番など)に応じて合成して聴かせる」というものであった。 それなら時間方向に接続するだけでなくて、楽器のパートごとにとっておいたも のをミックスダウンして聴かせてはどうか、というのが私のアイディアであった。 つまり自宅で音楽を録音している人にはおなじみだと思うが、MTR (Multi Track Recorder)をネット上に置いて、ユーザに操作させてしまうわけ である。Virtual MTRと名付けた。

この話はインターネットガーデンシ ティの会長(音楽出版社として有名な、リットーミュージックを創った方で ある)に持ち掛けられ、菅沼先生とギタリストの渡辺香津美さんを発起人として、 『インターネットジャズフェスティバル 梅一輪』として'96年4月 から6月まで行なわれた。現在、その跡地として、収録演奏の公開を許諾してい ただいたプロミュージシャンと、一般参加のセミプロ・アマチュアミュージシャ ンの演奏を同様の技術で聴くことができるようにしてある(『梅一本』)……のだが、先日の システムクラッシュの際にプログラムが失われたので、いつの日かまた再生した らお目にかけるとしよう。
WATANABE Kazumi with Umeichirin ちなみにフェスティバル名の『梅一輪』とは、打ち合せにいった飲み屋さん (香津美氏はお酒好きです)でたまたま置いてあったお酒の商標です。 こういうネーミングのセンスがすごいよね(笑)。 蔵元も大喜びしたみたいです。

それでもってこの後の伏線になるので一応、 このフェスティバルで使った音楽データは どういう素材か説明しておきますと、 合成された後の音はモノラルのPCM(wav、aiff、au形式)またはRealAudioです。 合成される前は、単なるPCMの素材を時間同期させて収録しておいて、それを cgiで動くディジタルミキサみたいなプログラムで合成・コンプをかけるわけ。 したがって、あるクリックに同期して録音しておかなければならない。 ミュージシャンの方々が演奏する時は、お互いの演奏はきけなくて(いや 他人の演奏をスタジオで見ることはできたけど、インタープレイとかいう意味)、 完全に自分のパートだけが抜けたマイナスワンのシーケンサの演奏に合わせて 演奏します。


プロ機材並みの『できること』、音質・操作性はやっぱりアマ機材

んで『梅一輪』レコーディング。これは緊張しましたねえ。なにせ趣味の レコーディング・エンジニアである私が(音作りなどはその前に本物のプロの エンジニアの方の卓を通るのだが)、プロの演奏を収録するのである。

で(あらかじめ)考えた。 頭の方にクリックを入れておいて、そこからの相対時間で編集する時 にスタート位置を合わせてもいいのだけど、それでは面倒である。何しろ 一人の人につき一曲、テーマ、ソロ(循環)、エンディングとあり、それぞれが 何テイクかあるのである。かける20人(笑)。 それに向いたものはないかと探したら、丁度VSが発表されたのでした。 VSは8トラックそれぞれに8バーチャルトラックというのがあって、同じ人の 演奏を7テイクまでは録れる(バーチャルトラック1にはカラオケを入れておくと、 丁度その人のときにはそのパートだけ抜けるでしょ)。 実はこれでは甘くて、その64バーチャルトラックの組を現場で2〜3組作る はめになったんですが(笑)。 という読みは当たって、 後日本当に編集作業は大変でした が、それもVSがあったおかげでだいぶ楽になりましたねえ。 もしDATだけで時間合わせしなければならなかったらどうなったことやら。

VSは当時、発売前くらいのスケジュールだったのが、横浜駅西口モアーズ・ 帝都無線さんのおかげで(ここの社長は菅沼ドラム道場・横浜道場をやっている 横浜セーラスタジオの店長・ 野口さん(彼もプロドラマーである)の友人で、楽器店業界ではすごい人なのだ。

さて現場で困ったのは、入出力端子(特に出力)の数が足りないこと。 マイナスワンの演奏を出し つつクリックも出しつつ、それをミュージシャンの手元でバランスとりながら ……というには、メインとAUX SENDだけでは足りな過ぎる。 せめてアナログMTRみたいに、トラックごとのパラアウトが出ていればよかった のだけど。 入力(同時4ch)も、今回はものほんの卓で処理してから入れたから2chでよかった けど、ドラム録りなどをこれ一台でやろうとしたら足りないでしょう。

あと困ったのはとにかくつまみが少ない(笑)。1chについて 2ないし3バンドのパラメトリック・イコライザやエフェクト(2ch)のセンドなど 十幾つのつまみがついていなければならないところを(ほとんどプロ用の卓と 同じ位)、メニュー切り替え + ジョグダイヤルでやるものだから、 一応内部構造が3通りに整理されているとはいえ、 スタジオなどで時間に追われて(1時間ン万円とかよ(笑))作業する時には 本当にあせりますね。どうしてプロ機材はつまみが多いのかわかったような 気がします(笑)←自宅ではそういうの少ない方がよい。机の上の面積とかあるか ら。

ちなみに当日参加された面々を書いておきますね。 もちろん発起人の菅沼孝三先 生渡辺香津美さん (課題曲1の『Unicorn』は彼の往年の名作でもあります)、菅沼先生の バンド、fragileからギタリストの矢堀孝一さん(課題曲2の『カレ カ』はfragileの曲であり、彼の作曲です)、ベーシストの水野正敏さん、 香津美さんのお声掛けで参加されたピアノの山下洋輔さん、 サックスの坂田明、ピアノの谷山公子さん、 菅沼先生のお声掛けで参加されたドラムの神保彰さんと桜井哲夫さん。


アナログMTRにできないこと

一部自宅録音参加の方々には、やっぱりDATなど時間がずれない(※ 実は 『ずれにくい』であった。ずれることはずれるのね)メディアに、 演奏頭と末尾に クリックを入れて録音してもらったのを送ってもらいました。それを 同様にVSにダビングして、クリックを元に時間調整をするのね。 時間を前後させたり、演奏を伸縮させたり。

この作業はアナログではおよそできませんねえ。パソコン上のハードディスク・ レコーダというのも(ソフトウェアで)あるけども、それをスタンドアロンの (ひょいひょいスタジオに持ち運び出来る程度の)機械でやってしまえるのが すごい。しかも操作もアナログのテープの感覚で出来るところがあって、例えば 頭出しに使えるスクラブ操作なんて、アナログのレコーダでヘッドの前で テープを往復させないとできないでしょ、それが再現されている。 やっぱり長時間に渡る(音程は変わらないのね)演奏時間の伸縮などは、 まあピッチ・シフターの高音質・リアルタイムでない版みたいなやつ なんですが、さすがに内蔵マイコンでは時間がかかりすぎみたいです。 この操作はあまり使わないからいいのだけど。ただ他にも、私の作品を昔の アナログMTRから2トラックづつダビングして時間調整して8trを再現する という作業を、これ使って便利にやりましたけども。

さてこちらの方式で参加された方々(自宅参加組)。 香津美さんのお声掛けでベースの井野信義さん、サックスの本多俊之さん、 ブルースハープの妹尾隆一郎さん、 菅沼先生のお越え掛けでもうひとつの菅沼先生のバンド、W.I.N.Sから ギターの和田アキラさん、キーボードの石黒彰さん、ベースの永井敏巳さん、 それにキーボードの西脇辰也さん、 尺八の中村明一さん、琴・箏の八木美知依さん、 あと私のドラム道場でのもう一人の先生である山崎彰先生も。

あとこれらの操作がすべてVTRのフレーム・ビット単位でできる (30フレーム・ノンドロップ)こと、またMIDIでシンクさせる時に (当然HDレコーダの常として、シンクのために1ch割かなくて良い) 小節数・拍数でも操作できること、さらにそれらの間を取り持つ MIDIタイムコードを取り扱えることなど、とても20万円以下の機械とは 思えません。

それからマイクやラインを使って本格的に収録したことはあまりないのです が、実は別売のマルチエフェクタボードを取り付けると、本体(と変わらない 大きさ)だけで、デジタルマルチエフェクタ内蔵になってしまうのね。別に デジタルエフェクタは持っているのですが、ちょっと録る ときには本当に便利です。

最後にVSの音自体について書いておきますが、これは決して良いものではありま せん。レコーダー部はもちろんディジタルなので文句はない……といいたいので すがMD同様の圧縮をしています(ただしレート は1/2くらいなのかな? ほとんど分からない)。そういうところではなくて、 やっぱりアナログ回路が安いです(笑)。なんつうかパンチがないのね。 でも自宅録音でそんな音質を求める方があれかもね(笑)。 なお圧縮している理由は、多分無圧縮だと(このモードも選べる)バスのレートが 追い付かないからではないでしょうか。圧縮していると同時4trまで録音できる のですが無圧縮モードだと同時2tr録音、あまりPCにサウンドブラスタつないだ のと違わなくなってしまいやす(笑)。


バックアップはZipでとる?

VSだってハードディスクレコーダなのだから、作品を一つ作り終えたら、 データをどっかに保管しておかなければHDDが一杯になってしまうわけです。 まあ作ってミックスダウンしては消し、を繰り返していれば いらないんだけど、それぢゃ後日いじりたくなったら困るし(リミックスバージョ ン出せないね(笑))、ディジタルのメリットがあまりなし。 あるいは一杯になったらHDDを買うとかね(笑)。 デジカメでメモリカードが一杯になったら次買う 奴(爆笑)と一緒だ。

というわけで指定バックアップデバイスのZipドライブ、 本体購入後にすぐ 買いました。あと普段あまり使っていなかったSCSI HDDも外づけで、レコーディ ング当日にのぞんだわけ。ところがZipは本番では使い道ありませんでしたねえ。 とにかく遅い。使いにくい。容量が小さい。

SCSI HDDは、どこのメーカーか問わず接続できるのだけど(SCSIの規格上そうなっ ている)、バックアップデバイスは試しにMOやらExabyte (8mm)やらをつないで みても、全然駄目。これはデバイスドライバが要るからなんですが、 せめてMOくらいは使えるようにしといた方がよかったんぢゃないの?


これについては、他の方が230MB MOや内蔵 over 1GB EIDE HDDを使えるとの レポート をしています。MOについては機種依存なのかもしれません (Jun. '97)。

さらにSCSIコネクタの形が変(爆笑)。実は後日、これってマッキンの SCSIコネクタだということがわかったんだけど、その割にHDDはDOS/Windoze フォーマットだし(後述)、マッキンユーザが外付けHDDを持っている確率って すげー小さいし(爆笑)変な機械です。 それよりAppleってどうしてああ標準でないことばっかりやってユーザの顰蹙を 買うんでしょうねえ。そりゃ普通の規格にしておいたらビル・ゲイツに客を 取られるからさ(笑)。

さてここで秘密情報です(笑)。Zipなんか買わなくても、640MB MOとか ストリーマとか持っていれば、もっと楽にバックアップを取る方法はあるのだ。 ただしPC互換機で少なくともDOSとかWindozeとかを使っている必要がある (MS-DOS file systemでマウントできれば、別に FreeBSDでも OPENSTEP (NEXTSTEP)でもいいけど)。 またIDE 3.5'' ←→ 2.5''アダプタを購入しなけ ればなりません。 つまり、VSのハードディスクは2.5''の普通のIDEドライブ(12.5mm)である。 なおかつなんとすべてのファイル(音声データ、それへのインデックス、 カレントの操作状態やUNDOデータまで)がMS-DOSフォーマットのファイルになっ ているのだ。リバースエンジニアリングして、それをPC上で操作 (っていうか偽造(笑))する方法は開発しませんでしたが、バックアップ取るだけ (つまりディスク全体をまるごと読んでファイルしたり、書き戻したり)には 支障はない。

2.5'' IDE HDDとは、ラップトップとかにはいっている奴ね。だから、これ自体 今では2.1GBとかになってるし(おっとそういえばEIDEは使えるのだろうか? 試したことないぞ)、これをさくっと抜いて(ネジ2本)、お手持ちのPCの IDEコネクタに差せば中身が読めるのだ。ただし当然、MS-DOS/Windozeファイル システムは入ってないし(入れたらVSでどうなるかわからんぞ)、 それがなきゃ今度はバックアップデバイスへの書き込みができないのだから、 2.5''用IDEコネクタが1つしかない、ラップトップとかでは止めた方がよいぞ(笑)。 したがって前述のように、普通のデスクトップPCで既にDOS/Winのシステムが 立ち上がっているのに、3.5''←→2.5''変換アダプタ(秋葉原の暗そうな お店で1,000円くらいで買える)を接続して、バックアップを取るのが良いのでは ないでしょうか。

と偉そうに書いていますが、実はそうやって取ったバックアップを書き戻してみ たことはないので、うまくいくかどうかわかりません。大体VS内蔵HDDを抜くこ と自体、保証対象外になると思うので、各自の責任でやって下さい(お約束)。


参考


結論

えーとここでの★★★は、値段とか、素人向け機材だということを勘案して です。そりゃ音質とか、つまみが少ないとか、SCSI(特にバックアップデバイス) がなんであんなだ、とか、いろいろ本文ではいいましたが、個人録音する人にとっ てこれほど良い機械はないのではないでしょうか。YAMAHAからMD使用の同様の製 品とか出てますし、Vestaxなんかも(VSよりちょっと前)同様のコンセプトの製品 を発表してたと思います。そっちは私は使ったことないのですが、製品から にじみ出てくる『モノ臭』を嗅ぐと、いまだにVSよりいいのはないぜ、という 良い香りがするのでした。


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